監督・脚本・編集・主演:石田えり
熊本県出身。『遠雷』(80/根岸吉太郎)で日本アカデミー賞優秀主演賞と優秀新人賞、『華の乱』(88/深作欣二)や『飛ぶ夢をしばらく見ない』(90/須川栄三)などで日本アカデミー賞最優秀助演賞などを重ねて受賞。 カンヌ映画祭コンペティション部門出品の『嵐が丘』(88/吉田喜重)、ヴェネチア映画祭オリゾンテ部門オープニング作品『サッド ヴァケイション』(07/青山真治)他に出演。 ヘルムート・ニュートンが撮影した写真集「罪-immorale-」(93)は大きな話題を呼んだ。2019年には、短編映画 『CONTROL』で初監督。『G.I.ジョー・漆黒のスネークアイズ』(21/ロベルト・シュヴェンケ)で、ハリウッドデビュー。
福田和子——その名前は、昭和と平成をまたいで日本中を騒がせた事件とともに記憶されている。1982年(昭和57年)松山ホステス殺人事件の犯人として指名手配された福田は、顔や名前を変えるなどして警察の目を欺き、時効直前の約15年間にわたり逃走を続けた。妻であり母親でもあった彼女の逃走劇とその背景は、当時の日本社会に大きな衝撃を与え、犯罪の恐ろしさだけでなく、人間の弱さや孤独、そして社会の闇を映し出す鏡としても多くのメディアや書籍で紹介されている。想像を超える痛みや孤独、そして恐れに満ちていたようにも思える福田和子の人生。その中で何が彼女を追い詰め、どのようにして彼女自身がその道を選んだのか——。
本作はしかし、過去の出来事を単なる犯罪史として再現する映画ではない。監督は女優としても知られる石田えり。芸能界で華々しいキャリアを持つ石田が、SNSやデジタル技術が普及した令和の時代に、あえて福田和子の物語を描くことは、人間の本質や社会の矛盾を改めて問い直すきっかけとなるだろう。彼女の逃走生活を描くことで、「罪を犯した者」が社会との接点をどのように持ち続けたのか、その中で何を感じていたのかについても新たな視点が得られるはずだ。これは福田和子の物語に重ねて、社会の光と人間の強さにもわずかな希望を見出している石田えりの物語でもある。
生きていれば、どんな人でも、できれば逃げ通したいものに出会う。しかし、「逃げる」ということは、「追われる」ということだ。いったいどうしたら「解放」されるのだろう? ある日、その答えのヒントになるような夢を見た。人に言うとバカみたいと思ったが、その3日後、詩人の谷川俊太郎さんが見た夢を語られているのを、偶然テレビで観た。全く同じ夢だった。驚いた。私はこの夢のことを、時効寸前まで15年逃げ続けた、整形殺人犯「福田和子」の事件を基に伝えられたらいいなと思いました。