Q:映画を撮りたいというお気持ちはいつごろから持っていらっしゃったんでしょうか。
もう20年ぐらい前、旅行中にすごい面白い体験をして映画にできたらいいなと思ったのが初めです。それでもまさか自分で書いて監督しようなんてまったく思ってなかったんですけど、その後舞台を作ったりいろいろしているうちに作る方に興味が出てきたんだと思うんです。それで短編映画を作って。でも最初につくりたいと思った映画は規模が大きいので、最初はこの作品がいいんじゃないかなって。
—— 成功なさっている俳優さんが映画を撮るというリスクを決断されたわけですよね。
リスクを考えたら怖くて手も足も出ないじゃないですか。映画を作ってひどかったら何を言われるかわからない、「何これ?」って言われて終わりみたいな可能性もありますけど、でも作ってみないとわかんないでしょ。作りたいなって気持ちのほうが強かったので。
短編を作ったとき自分が思い描いているものをそのまま映像化して伝えるっていうのが本当に難しくて、才能のある人でも伝えたいと思い描いたものがそのままお客さんに伝わるのかなって、すごい不思議だったんですけど。でも作りたいっていう気持ちが強かった。
Q:若い人に見てほしいとのことですが。
子どもの世界もいますごく大変で、逃げたい嫌なこととか、いっぱいあるんだろうなあって。それで若いとき、まだ心が柔らかいときに映画を見てくれてちょっとでも印象に残ってたら「あ、自分はいま逃げてるな」と思ったとき思い出してくれて、逃げないでやってみようかなって勇気出してくれたらうれしいなって思うのと、(この映画の多くの登場人物は)すごい悪意だらけじゃないですか。(世間は)お父さんお母さん、近所のおじちゃん、おばちゃん、みたいないい人たちばっかりじゃないと知るのはちょっと免疫力を高めるのに役立つんじゃないかなと思って。(映画で)悪意のある人間を見て「世の中にはこういうのもいるぞ」とちゃんと知っておくのも大事なような気がしますね。だから若い人たちに、その両方の意味で見てほしいなあ。
映画って感動するだけじゃなくて、役に立つっていうか。ずーっと好きな映画が『ショーシャンクの空に』なんですけど、あれなんかもう、映画の中の映画じゃないですか。希望を捨てないで、絶対諦めない。あれは希望なんかじゃなくて妄想なんじゃないかと不安になったところであの最後のシーンは胸がスカーっと晴れるというか。
まあでも映画って見ちゃったら、いろいろ感じるのは映画を見た人の自由なんだからね。
Q:福田和子さんを題材にしようと思われた理由とかきっかけは何かありましたか?
澤地久枝さんの本が好きで『烙印の女たち』みたいな系統の作品を読んでいたんですけど、犯罪関連の本を読んでいると福田和子さんにぶち当たるじゃないですか。それで、ほかの事件では「こういう事件があったのか」で済んでたんですけど、福田和子さんについて書かれたものを読んでいたときだけなぜか映像が浮かんだんです。たまたま同じタイミングで夢とかも見ちゃったんで、イメージが重なって。
—— それは監督コメントでお話しされていた谷川俊太郎さんと同じ夢を見たことがあるという夢ですね。どんな夢だったのかうかがってもいいですか?
それは、お化けに追いかけられる夢なんです。怖くて、怖くて、でも怖いから逃げる、逃げるから追われる、恐怖がだんだん増大していくんですけど、もうこれ以上は怖すぎると思って観念して振り向いてみたら、その原因が消えたという夢だったんです。それが「自分の嫌なこととか恐怖っていうのは、見ればいいんだ」っていうメッセージだと感じたんです。
—— 福田さんの本を読んでる時だけ出てきたイメージっていうのは作品の中ではどのあたりですか。冒頭の逃亡中のイメージもとてもリアリティがありましたが。
景色というよりは人物ですね。福田さんが見たかもしれない、人物がこっちを見ている顔です。逃げてる最中に出会った売春旅館でバイトしてるときの女の子がこっち向いてる顔とか。なんでそこがイメージされたのか自分でもよくわかんないけど、あどけない顔でこっちを見ている子とか。不思議ですよね。
—— 福田和子さんに何か共感されたところがあったのでしょうか。
共感はそんなにないですけど、極悪人という世間のイメージだけで、ものすごい極悪人なのだという目で見られる、そういう悪意を持った人の目線って怖いじゃないですか。そういう目で見られるのはきっと、怖かっただろうなあって。
—— 今だとSNSがあったり監視カメラも多いですし、若い何もしてないような人たちですら人の目をすごく気にしている社会だと思いますが、そうした事も考えられましたか。
そうですね。ストーカーとかいじめだったり。
—— 最近特に相互監視みたいな状態に陥ってしまっている印象を受けますよね。また女性の性被害とか人権に改めて光が当てられているということもあって。例えば、松山刑務所事件にも光を当てたかったのでしょうか。
そこまでは考えてなかったかもしれないですね。
—— でも浮き彫りになっちゃってるのがすごいですね。リサーチはどうされましたか?
リサーチというより本を読んだ時のイメージと、あとは自分が体験したり、見てきたことのイメージを混ぜ合わせて。
—— 興味があることに集中されるんでしょうか?
だって、そうじゃないと怖いじゃないですか。それでも不十分かもしれないけど、自分なりに知りたいことは全部知った状態じゃないと恐ろしくて書けないじゃないですか。あとやっぱり、自分の体験と重なるところは入れてますね。例えば福田和子さんはレイプ被害を受けているときに(加害者の顔が)爬虫類に見えたとおっしゃってるんですけど、それをそのまま映像化するのは難しい。それで、以前、人の顔が歪んで見えた経験を思い出して、そのイメージをCGで作ってもらいました。。ウケ狙いみたいな表現だと思われるかもしれないんですけど、実際あんなふうに見えましたから。
Q:若い人に見てほしいとのことですが。
子どもの世界もいますごく大変で、逃げたい嫌なこととか、いっぱいあるんだろうなあって。それで若いとき、まだ心が柔らかいときに映画を見てくれてちょっとでも印象に残ってたら「あ、自分はいま逃げてるな」と思ったとき思い出してくれて、逃げないでやってみようかなって勇気出してくれたらうれしいなって思うのと、(この映画の多くの登場人物は)すごい悪意だらけじゃないですか。(世間は)お父さんお母さん、近所のおじちゃん、おばちゃん、みたいないい人たちばっかりじゃないと知るのはちょっと免疫力を高めるのに役立つんじゃないかなと思って。(映画で)悪意のある人間を見て「世の中にはこういうのもいるぞ」とちゃんと知っておくのも大事なような気がしますね。だから若い人たちに、その両方の意味で見てほしいなあ。
映画って感動するだけじゃなくて、役に立つっていうか。ずーっと好きな映画が『ショーシャンクの空に』なんですけど、あれなんかもう、映画の中の映画じゃないですか。希望を捨てないで、絶対諦めない。あれは希望なんかじゃなくて妄想なんじゃないかと不安になったところであの最後のシーンは胸がスカーっと晴れるというか。
まあでも映画って見ちゃったら、いろいろ感じるのは映画を見た人の自由なんだからね。
映画監督 石田えりが伝えたかった物語